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2016年12月9日
write by 皆川 洋美
最近,IR推進法案!という名前で騒がれている,いわゆるカジノ法案のことについてお話します。
IR推進法案とは,
Integrated Resort
「統合型リゾート」に関する法律です。
第一条
この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
ざっくりいうと,マカオなどで実際にあるのですが,カジノの併設を認める区域を指定されて設置されるホテルやショッピングモール,レストラン,アミューズメント施設などと一体になった複合観光集客施設を作ることについて認める法律です。
カジノ目当てに行こうとする人が増えることを見込んで,同じ地域にある観光施設に集客をしようというものですね。
とはいえ,現在,日本ではいわゆるカジノは違法です。
刑法で,賭博及び富くじに関する罪として規定されています。
(賭博)
第185条
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。
ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第186条
1 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
(富くじ発売等)
第187条
1 富くじを発売した者は、2年以下の懲役又は150万円以下の罰金に処する。
2 富くじ発売の取次ぎをした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3 前2項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、20万円以下の罰金又は科料に処する。
この「富くじ」というのも,ぱっと読んだら,
「あれ?これって宝くじのことじゃない?」
って思いませんか?
そうです。宝くじは,「当選金付証票法」という法律に基づいて発行される富くじなんです。
しかし,これは,原則として犯罪なんだけれども,特別な法律を作って,刑法に定められた行為を犯罪にしないという対応がなされています。
ちなみに,例えば,ボクシング。
これは,相手を殴ってけがをさせることもありますが,
スポーツとして一般的なものでもありますし,また,お互いの同意のもとで行われているものですから,
ボクシング選手が傷害罪で毎回検挙されているというようなことはないわけです。
これも一つの,刑法に定められた行為を犯罪にしないという対応です。
あるいは,ちょっと今問題も起きているようですが,中絶。
これも原則として,中絶は犯罪ということになっていますが,
母体保護法によって,一定の場合には犯罪にしないという対応がなされています。
このIR推進法も,カジノ・賭博について,犯罪にしない対応をする,というものになるはずです。
このほか,現在「犯罪にしない」という対応にしている賭博には,
競馬・競輪・競艇などの,国や自治体で行っている賭博行為があります。
これらは特別の法律(競馬法)などによって,公営賭博事業については「犯罪にしない」という対応を採っています。
また,私もほんの数年前まではきちんと理解できていなかったのですが,
パチンコは形式上賭博ではありません。
これはパチンコを実際にやったことのある人の方がわかるのではないかと思いますが,
パチンコで出た玉でもらえるのは,お金ではなく,食品だったり,何かよくわからない券,たばこというような,自分で買ったとしても9600円を超えない安価で,かついろんな種類のある景品です。
これは,何か勝負をしたからもらえるというのではなくて,ゲームをやった結果もらえるものという扱いです。
その後,その何かよくわからない券を,近くにある古物商の人が高く買い取ってくれるという偶然が毎回生じているのだ,そういう扱いになっています。
なので,法律上,パチンコはそもそも刑法に該当しない行為だということになっています。
ただし,射幸性が高く,依存する人も多いゲームについて,風営法での規制がなされています。
同じ扱いのものとしては,麻雀も挙げられます。「まあじゃん」という表記がちょっと興味深いです。
客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせるから,ということで,風営法での規制はあっても,その行為そのものが賭博であるとはされていないということです。
さて。みなさんが「あれ?それも賭博じゃないの?」と思うほどには,
パチンコは射幸性が高いですし,競馬や競輪も身近にあります。
そんな中,IR推進法の制定に関する批判としては,ギャンブル依存症対策がきちんとなされていないというものがあります。
朝日新聞の社説からの引用ですが,
http://www.asahi.com/articles/DA3S12686149.html?ref=editorial_backnumber
賭博が禁じられている日本だが、競馬や競輪などの公営競技や、「遊技」とされるパチンコがあり、依存症患者は海外と比べても多いと指摘される。
14年には厚生労働省研究班が「依存症が疑われる成人は全体の5%弱の536万人いる」との推計を示して注目された。
つまり,この法律が制定されなくても,日本はすでに海外と比べても多数のギャンブル依存症を抱えているということです。
「統合型リゾート」という名前からみれば,ギャンブルのみというイメージもないかもしれませんが,
国営・地方自治体運営の賭博事業を,さらに増やそうというものなわけです。
弁護士として依存症の人たちにかかわることは大変多く,特に,債務整理が必要になったり,
生活費まで足りなくなってしまって,犯罪に走ったりというケースも多く見られます。
このような現状において,これ以上賭博事業を増やすことについて,
依存症になってしまっている方々への対策を同時に行うことは必須です。
むしろ,増やさなくても依存症対策は急務なのですから,減らす方向で考えることも考えていいくらいだと思います。
とはいえ,どんな依存症対策ができるのでしょうね。
適法な賭博事業に行くことを止めることはできるのでしょうか。
たばこは合法ですが,たばこ依存症に保険が適用されるのと同じように,
病院の費用に保険適用にしますか?
それって,どうなんでしょう?
国は,国営企業のために依存症になったのだから保険適用やむなしとするんでしょうか。
国民の理解は得られるかしら。
このほかに,当該地域の治安の問題もあるだろうと思います。
また,マカオなどのIRがすでに設置されている区域において,経済効果が薄れてきているという事情もあるようです。
これらの点について,日経新聞や読売新聞でも社説で意見が述べられています。
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO10251770T01C16A2EA1000/
カジノには、ギャンブル依存症の増加や暴力団など反社会的勢力の介入、マネーロンダリング(資金洗浄)の懸念といった様々な負の側面が指摘されている。
海外の事例を含め、こうしたマイナス面の検証や具体的な防止策の検討が不可欠なのに、付帯決議で先送りにされた。是非を判断する材料を欠いたままの拙速な審議は、許されない。
合法化を推進する立場の自民党などは、外国人観光客が増え地方の経済が活性化するといった効果を主張する。だがこの点も冷静に議論してみる必要がある。たとえばマカオのカジノは中国当局による腐敗取り締まりなどの影響で、主な顧客だった中国人富裕層が大きく減っているという。
(中略)
日本各地で大規模なリゾート開発を進めた末に多くが破綻した、かつての総合保養地域整備法(リゾート法)の二の舞いになる心配はないだろうか。地方では、競馬や競輪などの公営ギャンブルも低迷しているのが現状だ。
高齢化や人口減が進むなか、疲弊した経済を立て直すきっかけにしたいという自治体などの思いは分かる。そうであればなおさら、カジノ事業を黒字にできるのかどうか、慎重に検討する必要があるだろう。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20161201-OYT1T50136.html
自民党は、観光や地域経済の振興といったカジノ解禁の効用を強調している。しかし、海外でも、カジノが一時的なブームに終わったり、周辺の商業が衰退したりするなど、地域振興策としては失敗した例が少なくない。
そもそもカジノは、賭博客の負け分が収益の柱となる。ギャンブルにはまった人や外国人観光客らの“散財”に期待し、他人の不幸や不運を踏み台にするような成長戦略は極めて不健全である。
さらに問題なのは、自民党などがカジノの様々な「負の側面」に目をつぶり、その具体的な対策を政府に丸投げしていることだ。
公明党は国会審議で、様々な問題点を列挙した。ギャンブル依存症の増加や、マネーロンダリング(資金洗浄)の恐れ、暴力団の関与、地域の風俗環境・治安の悪化、青少年への悪影響などだ。
いずれも深刻な課題であり、多角的な検討が求められよう。
十分な資料検討と,議論と合意なしに,簡単に通していい問題ではありません。
むしろ,様々な新聞社説が述べている通り,いずれも負の点が多すぎることから,見直すべきものだと考えています。
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