(1)はじめに 7月30日に新卒で積水ハウスに入社した20代の元社員2人とブラック企業被害対策弁護団(戸舘圭之、明石順平、宮里民平)が東京地裁へ労働審判を申し立て、厚生労働省で記者会見を開催しました。 積水ハウスは、国内最大手の住宅メーカーで、資本金1,915億5,919万円、従業員数15,750名(平成26年4月1日現在)を抱える有名大企業です。また、積水ハウスでは,毎年約700名の新卒社員を採用していますが、3年以内の離職率は約40パーセントに上ると社内で言われています。 元社員2人は、積水ハウスにおいて、入社当初から残業代が一切支払われないまま、厚労省の定める労災認定基準(通称「過労死ライン」)である月80時間近い長時間過密労働やパワーハラスメントが続き、心身に不調をきたして退職するに至ってしまいました。 今回の労働審判では,上記のような長時間労働に対する残業代(及び付加金)と,パワーハラスメントにより申立人が被った損害賠償を請求しています。
(2)2人の働き方について 積水ハウスでは、入社後3カ月間は研修期間と定められており、前日の夜まで作業を行わなければならない日も多くありましたが残業代等は一切支給されませんでした。また、研修の最後には、2泊3日の自衛隊訓練研修が行われました。この研修期間中は、風邪をひいても行うよう命ぜられ、申立人も風邪をひいて声が出ない状態であったにもかかわらず、研修に参加させられました。 支店配属後の働き方はさらに過酷を極めました。朝8時15分に支店へ出社し、営業準備やメールチェックを行い、その後ラジオ体操、朝礼、チームでの会議があり、10時半から支店外で営業活動をスタートします。営業活動中は、飛び込み営業やチラシ投函などを行い、飛び込み営業は1日300~500件行っていました。移動は基本的に自転車です。 18時頃に支店へ帰社した後も、仕事が続きます。顧客リストに載っているお客さんへの電話折衝、営業で話したお客さんの情報整理や資料作成、物件契約後のローンや打ち合わせの準備、翌日の営業準備、1日の報告としての日報作成などが続き、退社は22時頃になってしまいます。所定労働時間内にはとても収まらないような過酷な労働でした。 ところが、このような長時間労働に対して、積水ハウスでは基本給約20万円に加えて営業手当約3万が付くだけで、残業代を一切支払っていませんでした。 さらに、パワーハラスメントも蔓延しており、飲み会に強制的に参加をさせられ、お酒が弱いにもかかわらず、アルコール度数の強いお酒を飲むことを強いられたり、タバコの灰を付けた刺身を食べることを強要されたりすることが日常茶飯事でした。
(3)「事業場外みなし労働時間制度」の問題について 積水ハウスでは、「労働時間を算定し難い」労働者に対して適用できる「事業場外みなし労働時間制度」を、営業職の労働者に適用しているとして、残業代を支払っていません。 ところが、実際に当事者2人は、仕事の進捗管理について、「月間スケジュール」を提出し、毎日の朝礼で予定を上司と確認し、支店外での営業活動中は、携帯電話およびiPadにて頻繁に上司と連絡を取り合っていました。そして、帰社後には1日の業務内容の詳細を報告していました。 以上のように、会社は営業職の労働者の労働時間を把握することができるため、「事業場外みなし労働時間制度」を合法的に適用することは困難といえ、未払い賃金を支払う必要があると考えられます。
(4)本件申立ての意義 以上のように、積水ハウスの労働環境は、まさに「若者を使い捨てにするブラック企業」の典型といえるものです。このような有名大企業の問題を問うことで、ブラック企業対策に向けた取り組みを前進させていきたいと思います。また、違法な「事業場外みなし労働時間制度」の下で過重労働を強いられている「営業職」の労働者の環境改善にも、今回の取り組みを結びつけていきたいと考えています。 (ブラック企業対策プロジェクト事務局) |