共同親権について
- 1 家族法の改正について
(概説) - 2024年(令和6年)5月17日、いわゆる離婚後共同親権制度の導入等を内容とする改正民法が国会で成立しました。
この民法改正は、離婚後共同親権制度の導入に加えて、法定養育費制度の導入、養育費への先取特権の付与、父母以外の者との面会交流についての規定の整備など、多岐にわたる改正が盛り込まれており、「戦後最大の家族法改正」とも言われています。
改正民法は成立から2年後に施行される予定となっていますので、2026年(令和8年)5月17日からは、離婚事件等の家事事件についてこの改正民法が適用されることになります。
- 2 離婚後共同親権制度に
ついての
当事務所の立場 - しかしながら、私達は、これら一連の改正のうちいわゆる離婚後共同親権制度の導入について、これによって当事者が不幸になってしまうケースが多く生じるのではないか、ということを強く心配しています。
離婚後共同親権制度が導入されてしまうと、お子さんの生活についての重要なことがらは、離婚した配偶者双方の話し合いによって決めなければならないことになります。これは、別れた配偶者に、お子さんの生活についての「拒否権」を認めるということとイコールです。これによって、お子さんの生活の重要な節目節目で大きなブレーキがかかりうることになります。
さらには、こうした「拒否権」があることをいわば交渉材料として、別れた配偶者がもう一方の配偶者に対してさまざまな形で影響力を持ち続けようとする、支配力を及ぼし続けようとする、といったことも懸念されます。
そもそも離婚というものは、もはやこの人とは一緒に生活をしていけない、もうこの人と人生は共にできない、と判断したからこそなされるものです。共同生活が営めないからこそ、離婚という重い選択に踏み切るわけです。
そうであるのに、子育てについてだけは共同してできます、というのは、およそ現実味が無い話ではないでしょうか。話合いができないからこそ別れた二人にあえて話合いを強いる、という建付けの制度がどれだけ無意味で有害であるか、お分かりいただけるかと思います。
もちろん、離婚はしたけれどもお子さんについてはお二人で真摯に協力して育てていけるのだ、という方々も、中にはいらっしゃるかもしれません。しかし、そのように真の意味で協力し合える方々については、あえて法律上の共同親権など認めなくても、単独親権のまま、お二人で話し合って子育てをしていっていただくことで何の問題もありません。残念ながら、法律上の共同親権制度は、こうした話合いによる協力ができないときにこそ“効果を発揮する”制度なのです。
以上のような理由から、私達きたあかり法律事務所は、離婚後共同親権制度に反対であり、一刻も早く法改正がなされて元の単独親権制度のみの制度に戻ることを強く求めています。
もっとも、そうは言っても現実に離婚後共同親権制度が成立してしまった以上は、少なくとも当分の間は、この制度が存在することを前提にして、離婚事件等の処理を行っていかざるを得ません。そこで、離婚後共同親権制度によって不幸に陥る当事者が少しでも減らせるように、これについてのQ&Aのページを設けることにしました。(改正したばかりの新しい制度ですので、今後の制度運用や裁判例の蓄積などを反映して随時改訂をしていく予定です。)
このページをご覧いただいた方々、とりわけ当事者の方々(離婚を検討されている方々、現在離婚交渉、調停、訴訟などを行っている方々、既に離婚をした方々)は、ぜひこのQ&Aをお読みいただき、離婚後共同親権制度への対処方法についての知識を身に着けていただければと思います。
- 3 Q&A
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現在離婚を考えている方
Q1 いつから離婚後共同親権制度が始まりますか?A1 遅くとも2026年5月24日までには始まります。
2024年5月17日に、離婚後共同親権制度を含めて改正民法が成立。5月24日に交付されました。公布から2年以内に施行されることになっていますので、2026年5月24日までに制度が始まることになっています。
Q2 離婚後共同親権制度が始まった後に離婚すると、必ず共同親権になるのですか?A1 必ず共同親権になるわけではありません。
改正後の民法では、協議離婚や調停離婚の場合、夫婦の話し合いにおいて共同親権とするか単独親権とするかを決めることになります。
また訴訟手続で離婚する場合には、裁判所が共同親権とするか単独親権とするかを決めることになります。たとえば、裁判所がDVや虐待があると認定した場合は単独親権になる可能性が高いでしょう。
そのため、必ず共同親権となるわけではありません。Q3 共同親権になると、離婚後の生活にどのような変化がありますか?A3 お子さんについて、元配偶者と話し合う機会が増えるでしょう。
お子さんを育てるにあたって必要な意思決定について、原則として親権者双方が話し合って同意することが必要になります。
そのため、離婚後も元配偶者とお子さんについての話し合いをする機会が増えるということになると思われます。Q4 どういった場合に共同親権になり、どういった場合に単独親権になるのでしょうか?A4 現時点では、明確な基準をお示しすることは困難です。
Q2に対する回答のところでお答えしたとおり、協議離婚あるいは調停離婚の場合は、単独親権にするか共同親権にするか、夫婦の話し合いで決めるのが基本ですが、夫婦の間で合意に至らない場合には、どちらにするかを裁判所で決めることになります。
裁判所で決めることになった場合、民法の条文上は「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮」(改正後民法819条7項柱書)して決めるとされていますが、次のような場合には必ず単独親権とすることとされています(改正後民法819条7項1号2号)。
① 父親又は母親が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき
② 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れの有無、父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
具体的には、例えば子供への虐待や配偶者へのDVが行われていたと裁判所で認定されたケースでは、単独親権とされる可能性が高いということです。
もっとも、これらに当てはまらないケースにおいて、どういった場合に共同親権になり、どういった場合に単独親権になるのかは明確になっていません。
弁護士としての実務上の経験・感覚からすると、おそらく、一方の親に一定程度の単独での監護実績があり、かつ父母の人間関係が高葛藤状態であるというような場合には、単独親権とされるのではないかと考えています。
もっとも、具体的な監護実績がどのくらいであれば足りるのか、高葛藤とはどの程度のものか、というようなことについて明確な基準を示すことは困難です。
そのため、条文に「父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して」と規定されていることについて、今後裁判所がこの文言をどのように解釈し、適用していくかに注目していかなければならないと考えています。Q5 私は離婚を検討していますが、子どもについて共同親権となってしまうことは避けたいと考えています。
その場合、離婚後共同親権制度が始まる前に、一刻も早く離婚しておいた方がよいのでしょうか?A5 必ずしもそうとはいえません。
まず、お子さんがいるということであれば離婚にあたって決めるべきことはたくさんあります。とりわけ養育費の金額や面会交流の頻度などは将来にわたってあなたやお子さんの生活に重大な影響があることです。そのため、何を重要視して離婚するのか、ということをよく考えたほうがよいので、少なくとも法律相談をしてからご判断なさることをお勧めいたします。
それから、改正民法では、「子の利益のため必要があると認めるとき」に、「親権者を変更することができる」とされています。ということは、改正民法が施行された段階ですでに単独親権での離婚が成立していたとしても、元配偶者から共同親権に変更するように申立がなされることがありうるということです。したがって、離婚後共同親権制度が始まる前に離婚したとしても、共同親権に変更される可能性が絶対にないとまではいえないことにも注意が必要です。Q6 離婚後共同親権のもとでは、どんなことについて元配偶者の同意が必要になるのでしょうか?A6 お子さんの生活に関する重要な節目の選択について必要となります。
改正民法824条の2によれば、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や、「監護及び教育に関する日常の行為に係る」ものについては、離婚後共同親権制度の下でも単独で親権行使が可能です。
つまり、緊急に手術が必要な場合や、日々の食事のことなどは、監護している方の親が単独で決めることができるものになります。
しかしながら、「日常の行為に係る」ものではなく、かつ「急迫の事情」もない事柄、すなわちお子さんの生活に関する重要な節目の選択については、離婚後も父母が協議して決めなければならないことになります。
例えば、受験や転校、手術、パスポートの取得などについては、父母の合意が必要とされ、父母の意見が対立した場合はその都度家裁で誰が親権を行使できるのかを判断することになります。
とはいっても、結局何は単独で決められて、何は単独で決められないのか、ということが分かりづらいため、国会の附帯決議では、政府と最高裁に対して、具体的に何がこれらに該当するか周知するガイドライン等を作ることが求められています。Q7 一緒に住んでいない親も、いわゆる「保護者」として扱われるのでしょうか?A7 どの制度での「保護者」のことを指すのかによって異なります。
制度によっては、その制度で定める「保護者」が必ずしも親権者と一致しないことがありますので、それぞれの窓口に問い合わせることをお勧めします。
Q8 共同親権になった場合には、ひとり親家庭への支援が受けられなくなってしまうことがありますか?A8 現時点ではっきりしたことはいえないものの、単独親権の世帯と共同親権の世帯とで取扱いが変わる可能性があります。
たとえば、文部科学省は、離婚後共同親権の世帯であっても、法律上の保護者の定義が子に対して親権を行う者であることから、「共同親権を選択した場合には、親権者が2名となることから、親権者2名分の所得で判定を行うことになる」と法改正時の質疑で回答しています。
ひとり親向け支援制度としては、子どもの高校無償化、児童扶養手当などさまざまな制度があるのですが、それら制度の利用が、共同親権による離婚後の夫婦の合算収入判断等によって、使えなくなったり減額されたりする可能性は否定できません。Q9 離婚後共同親権になった場合には、子供と非監護親との面会交流は義務的になるのでしょうか?A9 そんなことはありません。
離婚後共同親権であることと、面会交流とは関係がないので、共同親権だから面会「できる」とか面会「させなければならない」ということではありません。
現行民法においても離婚前は共同で親権を行使することになっていますが、だからといって必ず面会交流ができるとかしなければならないということにはされておらず、現に子を監護している監護親と非監護親との間で協議をしています。それ同じです。
面会交流は、「子の利益を最も優先して考慮」(改正民法817条の13)して、面会交流に必要な事項を定めることになっており、その趣旨は現行民法でも改正後民法でも変わらないと考えられます。Q10 離婚にあたって共同親権としておけば、養育費の支払いが確実になりますか?A10 それはまったく別の問題です。
そもそも親は、「子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない」(改正民法817条の12)とされていますが、これは共同親権かどうかとは関係がありません。
また、共同親権と同時に導入された養育費に関する先取特権という制度(改正民法306条3号、308条の2、766条の3等)により、離婚時に養育費の取決めがない場合、「法定養育費」として、一定の養育費の支払を請求し、差押えができる制度が導入されることになりました。しかし、これも共同親権かどうかとは関係がありません。
そもそも現行民法下においても、離婚前は共同で親権を行使しているにもかかわらず、婚姻費用の金額についての紛争や未払の問題が後を絶ちません。このことからも、共同親権であるかどうかと養育費の支払いの問題は別であることが分かります。Q11 共同親権となったものの、元配偶者との協議がうまくできない場合にはどうしたらいいのでしょうか?A11 家庭裁判所で手続を執らなければなりません。
もちろんQ6で回答したように、単独で親権を行使できることについては、元配偶者との協議をする必要はありません。
しかし、共同で親権を行使しなければならないことについて、協議が整わないものの子の利益のため必要がある場合には、それについて単独で親権行使できるように家庭裁判所に請求する必要があります(改正民法824条の2)。Q12 共同親権で協議がうまくできない場合に単独で親権を行使するための手続は、どれくらい時間がかかるのでしょうか。A12 現時点でははっきりしたことはいえませんが、長くかかる可能性もあります。
この手続については、今は存在しない新しい手続なので、具体的にどれくらいの時間がかかることなのか、はっきりとしたことはいえません。
もっとも、現在、いわゆる家事調停事件は3か月から1年の期間がかかっていますし、2年以上かかっているものも少なくないことから、これくらいの期間を要する可能性もあるものと考えられます。Q13 共同親権となったが、その後に元配偶者と連絡がつかなくなったような場合も、協議をしなければならないのでしょうか。A13 親権者変更の手続を採ることをお勧めします。
そうした場合には、家庭裁判所において共同親権から単独親権への親権者変更の手続きを執ることで、協議を不要とすることができます。
変更の決定が出るまで少し時間はかかるかもしれませんが、その後協議が不要になる可能性があります。すでに離婚をしておられる方へ
Q14 私はすでに離婚して単独親権者となっているのですが、今後において、離婚した配偶者から共同親権とすることを求められることはあり得ますか?A14 あり得ます。
改正後の民法第819条6項は、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる」と定めており(Q5も参照)、この親権者変更の手続によって、共同親権とすることを求められることが考えられます。
Q15 単独親権で離婚したのに、後になって共同親権に変更することを求められたら、必ず応じなければならないのでしょうか?A15 そんなことはありません。
共同親権への変更は「子の利益のため必要があると認めるとき」でなければ認められませんので、共同親権にすることが子の利益のため必要があるといえないのであれば、共同親権への変更を争うことができますし、争うべきです。
Q16 もしも共同親権になってしまったら、これまで単独親権者として子のために行ってきた行為の効果はどうなりますか?そうした行為は全て無効になってしまうのでしょうか。A16 そんなことはありません。
万が一共同親権への変更が認められてしまったとしても、過去に単独親権に基づいて行った行為の効果が無くなるわけではありません。
もっとも、継続的な親権の行使が必要とされること(たとえば継続的な治療行為など)については、共同親権への変更後は、他方親権者の賛同がなければ継続できなくなるおそれはあります。