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2025年9月30日

お知らせ

性別変更特例法に関する決定2件について

きたあかり法律事務所です。

当事務所の皆川洋美弁護士が、
9月19日付にて、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」と呼びます)3条1項の性別取扱い変更の事案において、須田布美子法律事務所の須田布美子弁護士と共に、同条項5号要件について違憲無効であるという内容の決定を得た案件について、本日記者会見を行いました。

その概要について、以下ご報告いたします。なお、本文章のうち意見に渡る部分については、基本的に皆川の意向であり、須田弁護士の意向とは必ずしも一致しないことがあることをご了解いただければと思います。

「性別の取扱いに関する特例法」は、いわゆる性別不合の方が、家庭裁判所の審判を経て戸籍上の性別を変更できる制度を定めた法律です。
まず、戸籍取扱いの問題と、公衆浴場や公衆トイレ利用の問題は別であり、札幌家裁がトランスジェンダー(Transgender)についてあまねく公衆浴場や公衆トイレについて性自認に従った利用を認めるものではない、ということにご留意ください。

トランスジェンダーとは、性自認が出生時に割り当てられた性別と一致しない人々を広く指す社会的な概念です。医学的診断の有無は問いません。

性同一性障害(Gender Identity Disorder, GID)とは、医学的な診断名のひとつであり、従来は「心の性と身体の性が一致しないために、強い苦痛や生活上の支障が生じている状態」とされました。特例法で要件とされるのも、この「性同一性障害」という医学的診断です。
ただし現在、国際的には「性同一性障害」という病名は使われなくなり、「性別不合(Gender Incongruence)」というより中立的な用語が主流になっていますし、GID学会もGI学会と名称変更をしました。
「性同一性障害」とは「トランスジェンダー」の一部分を医学的に切り出した概念という位置づけになります。

この性別取扱変更の手続を利用するためには、特例法3条1項により、性不合の診断を受けた方で、以下の5つの要件を満たす方が、家庭裁判所に申立を行うことが必要とされています。

1 年齢要件
2 非婚要件
3 子なし要件
4 生殖不能要件
5 外観要件

ただし、5つの要件のうち、4号の要件については令和5年の大法廷決定により、法改正はされていませんが、満たす必要がないとされています。
今回違憲無効であるという札幌家庭裁判所の決定は、5号の要件について、法令違憲の判断をして、満たす必要がないとして、それぞれの申立人の申立を認めました。

その決定を得るために、私たち代理人は、本件について、3つの主張をしていました。
1つめは、申立人らが5号の外観要件を満たしているという主張です。
2つめは、5号要件が常に無効であるということではなく、申立人らに5号要件を適用することは、憲法違反、違憲であるという主張です。
申立人らにはそれぞれ、ホルモン治療をすることができない事情がありました。
本件での詳細については、個人情報に渡る部分もあるため、省略しますが、経済的な事情や、一度実際にホルモン治療を受けてみたものの大きく体調を崩した経験など、多くのトランスジェンダーにとっては「よくある」事情によります。
そして、3つめに、法令違憲であるという主張です。
令和5年大法廷決定の補足意見の中でも、裁判官たちが外観要件の侵襲性については触れていましたが、本件はこの外観要件の法令違憲について直接判断したものです。
そして、外観要件を満たすために外科手術をすることももちろん、ホルモン治療を受けることについても、憲法13条が保障する身体への侵襲をうけない自由を制約するものであるから違憲無効であるため、満たす必要がない、としました。

私たちは、外科手術だけではなく、ホルモン治療も不要であるとした点において、画期的な決定であったと考えています。
同様の決定が全国で何件なされているのかは分かりません。
ただ、このように公にした件を他に知らないため、公にした件は初めてではないかと考えています。

既に、一部マスキングをしたものについてですが、判例雑誌等への搭載の同意をしておりますため、決定書については今後判例雑誌などでご覧いただけるものと思います。
特に個人情報に渡るような個別のご質問についてはお答えしかねることがありますので、ご容赦いただければと思います。

また、繰り返しになりますが、戸籍取扱いの問題と、公衆浴場や公衆トイレ利用の問題は別であり、札幌家裁がトランスジェンダーについてあまねく公衆浴場や公衆トイレについて性自認に従った利用を認める内容の決定を出したのではない、ということにご留意ください。
社会の中では、多くの不安をあおる言説がまかり通っているように思われます。
理解をしていただけなかったとしても、トランスジェンダーは「そこに」います。
あなたが「認める」か「認めない」か、ではありません。
社会の中で、これまでも女性として生活してきた申立人、男性として生活してきた申立人が、それぞれの社会での生き方・生活に法的な取扱いを合わせることになった、そういった案件であると理解していただきたいと思います。
また、今後も、社会での生き方・生活と法的な取扱いの一致を望むトランスジェンダーの方々の性別取扱い変更について、司法の場面のみならず、尽力していきたいと考えています。

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